長唄聞書6「蓬莱」





年も改まりますので今回は御めでたく、この曲にいたします。蓬莱とは御存知の様に中国の伝説にある空想上の島で、仙女の住むこの島を廓に見立て作曲された――これらはどの解説本にも書いてありますので詳しくは申しません。作曲年代は不明ですが、作曲者四世六三郎は天保十一年六翁と改名後は六三郎名義を一度も使用していませんので、正本に六三郎以下三挺三枚のメンバーがあります故天保十一年以前の作曲と思えます。天保末年か弘化の作曲と書いた解説がありましたが、こういう事を簡単に言ってしまうと恥をかきます。解説を書く時とか話す時は、今迄の本を全部一応疑ってみて各自改めて御調べになる様おすすめします。前に書かれた本が正しければ改めて先人の偉さを認識出来ますし、御自分自身の為にも勉強になる筈です。
岡安家ではこの曲を今も忌物として演奏しませんが、これは初演者三世喜代八が新宅開きにこの曲を選んで演奏した所、数日内に火事になりこれは曲中に「恨みて煙る」と言う文句があった為だ。と言う事になっています。しかし私が故栄蔵師に伺った所によりますと、火事にあったのは作曲者自身であって洒落に「恨みて煙る」と言う歌詞をわざと入れた由で、この方が真相のようです。
二上りの前弾は鶴が歩いている表現との事で、「日の色」のウミ字を下げる人が多いですが返すのが本当の由古老に聞きました。
「そよ風」は下手にやると強風になってしまいますが、春風とかそよ風と言う言葉はよく出て来ますし、演奏パターンも似ているのでよく御研究下さい。「仇し仇波」は三味線で波の表現をしていますが、唄の方もユクリの扱いで波を表わします。本調子の田舎節は、当時深川で流行した端唄を取入れたという言い伝えがありますが、ここはヒンダ踊りの旋律を使用している由で、ヒンダ踊りを調べる上に貴重です。六翁は「島台」(同名の曲は四曲あります)でも田舎節旋律を使っています。テレトンは各流で違い、三五七,四五七,五五七の三種が大別してある様です。杵家では三五七の由で七五三というめでたい数字にちなまれた様です。舞踊の地をやります時は、五五七が一番多い様に存じます。小谷青楓氏は「萩の」と「招く」の唄い方テンポを変えるべきだと書かれていますが、位どりを変えれば良いのではないかと思います。私は「招く」の方が唄い易い様な気がします。ここの歌詞は明治八年八世六三郎が改定した歌詞と旧文句と両方行われています。(根岸の勘五郎が改定したと言う説は誤り)
段切は御成道節止めと言う手の由で、外には「都鳥」がこの段切を使っています。私自身は田舎節より「眺め尽きせぬ」から段切迄が極端にむつかしい気がします。この曲は御祝儀曲として大変良い曲ですが、結婚式では忌言葉が多い故なさらぬ方がよいと思います。
明治八年の歌詞改定は八世六三郎と三世勘五郎の二種類の改定があります。



戻 る