長唄聞書3「吾妻八景」





この曲が出来た時は、あれが長唄かい?と言われたそうで、河東節等の旋律を上手く使っています。曲は春夏秋冬と、又一日を表現しています。本調子はまだ一日の薄暗い夜明けから始まり「あけぼのぞめや」で日が昇ります。「目許美し」からは朝の雑踏、「はるかあなた」で昼の状況、三下りから夜となります。
又、本調子は新年から春、佃合方から初夏「松葉かんざし」あたりから秋、三下りは冬と一年の表現となります。
前弾は、永井素岳氏の説によると宝暦頃の流行唄の旋律を使っている由、この前弾の部分に二つの異なった陰音階の旋律が使用されています。真中の部分は鳥追いの旋律を使用しているともいわれています。案外これで新年を表しているのかもしれません。唄の始めは河東節を使い「江戸紫」はレイゼイとの事、「水上白き」より江戸ガカリと言う手との事です。「花の波」は河東オトシで、きちんと唄っている人は大変少ない様です。御研究下さい。
佃合方で終りの方に二上りの音階を提示して、二上りの転調に抵抗がない様に作曲されています。「はるかあなたのほとヽぎす」は、下手な人が唄うとうんと近くで鳥が鳴いているように聞こえます。「天女のたわむれ」で、一の糸の開放音を楽的に使用しています。「いづちへそれし矢大神」は、いづちへそれしや。と疑問文にかけてあり、この辺のかけ言葉は大変面白いし、色々調べ出すとあヽこう言う事かと新発見をなさる事が多いと思います。「すみだ川」は、イイの数が四つと五つの二派があります。今日一般的な唄い方は天保三名人の一人芳村五郎治(二世吉住小三郎)がすばらしい声と節をきかせた事が語り草になっていました。この間の事情は書いてある本が多いので省略します。
砧の合方の終りの方にやはり三下りにする為の伏線的音階を使っており、三下りの転調がスムーズに行われるよう作曲されています。楽の合方は上調子用法が特に面白い様に思われます。上調子の作曲者は、作曲者の奥さん、初代六四郎、栄蔵(後の三世勘五郎)の三説があります。私は初演正本のトメに六四郎が書いてある所からみて、六四郎説をとりたいと思っています。「楽の音共に」のチラシは、シャープ型の二上り的用法が使われ、「めぐりてやみん」より、フラット型の三下り用法となり気分を変え終了しますが、この作曲法は特にすばらしいと思います。
歌詞作者は作曲者自身と言う説が多いのですが、私は色々な点から否定したいと存じます。何れ機会をみて発表しようと企んでいます。「季刊邦楽」二三号(昭和五七年十二月)が本曲の研究特集を掲載していますので、是非御一読される様おすすめします。



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