色々の解説書にあります様に、作曲者の五代目杵屋三郎助(根岸の勘五郎)が、亀を見つけて藁で結んで持帰り、あたらし橋の真田信濃守邸の池に放った所、信濃守が喜んで「幸いも歌女のよわいにたぐえつつ幾万代と祝う寿」と云う歌と「めりやす紅葉詣」と云う題を賜わりこれを基として作詞作曲し、安政六年十二月十五日同屋敷で開曲されました。初演メンバーは唄、五代目芳村伊三郎・芳村やす。三味線、杵屋三郎助・杵屋多喜で、翌年正月十三日同邸で再演の折上調子が入りました。
曲名の「めりやす」ですが、始めの三下り「月の名の」より「滝の川」迄が、めりやすとして作曲されたとの事です。始めの「月に名のしぐれも」の所で研譜などはれで急に上げるように書いてありますが、ぐウれのぐのウミ字で上げてれにつなげなくては、めりやすにならないと、小三八師、栄二師、山田抄太郎師に教わりました。ある方があれはミスプリだから直すよう仰っしゃっていましたが、決してミスプリではなく、囃子が入った時は鼓唄として唄うので譜の通りれで急に上げるのです。演奏の時三味線の方がヨー・チャンと弾かれた時は鼓唄として唄い、カケ声なしでチャンと弾かれた時はめりやすとして唄うのが唄方の常識です。「休みィ難うて」のみのウミ字をメラしてかとうに続けるのが、めりやすの型なので必ずやって頂きたいです。
わたしは「あやに妙なる」の所が曲中で一番むつかしいと思います。位どりをし、語るようにやるべきで、「通い来る」のウミ字をはっきりユクリをして三味線のトロトロに渡すので、間が悪いと三味線の方に大迷惑を御かけすることになります。「ちしおに照りて」を血汐の色の様に赤いと書いてある本があり、それも一理でしょうが、紅葉の品種に千入と云うものがあり江戸時代に好まれたので、こちらをとりたいと存じます。「八束穂のわら」は亀を結んで来た藁の事をかけています。
「めぐみ」は唄を賜った殿様への感謝の意があるので立派にやります。松代は信濃守が松代侯であった為で、「数を沢のの」の沢のは作曲者が住んだ根岸のある場所を沢野といった由でそれをかけてあると仰っしゃった方がありました。(今鶯谷にある羽二重団子は大昔、沢野屋と云ったそうです。)ここの所は早くて調子が高くて苦しい場所ですが、一言一言はっきり云えば割と辛くない様に存じます。「栄みぎり」のみぎりを上げる人がいますが、これではアクセントが逆の様です。「かアめエの」で三つに切る方がいますが、余り切るのはどうでしょうか、めのと続けた方がやり易いような気がします。「幸いも」から段切迄が賜わった和歌そのままの詞なので、早い所ですが丁寧に演すべきで、幾万代との切方が悪いと祝う寿で曲をこわすので、最後迄気が許せません。
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